みやけばなし

毎週金曜更新

沈黙のユズけしマシン

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 喫茶店や個人経営の飲食店に入って、店員と世間話をするのが苦手すぎる。

 職場の前の個人経営の喫茶店に1週間に1回くらい行っていて、もう3年くらい通っているのだが、世間話をしたことは一度もない。店主は私が向かいの図書館で働いていることを知っている(一度傘を忘れたときに届けてくれたことがある)。時折図書館に来ているのも見かけるし、会えば挨拶くらいはする。しかし、世間話は一切しない。

 意図的に沈黙しているので、いわゆる場面緘黙というのとは違うと思う。何度も行く飲食店で一度でも世間話をしてしまうと、それ以降毎回世間話をしないといけなくなりそうで嫌なのだ。私は本を読んで過ごしたいがためにわざわざ職場を離れて外に昼食を取りに来ているので、人と話してしまうと休憩にならない。

 友人でも恋人でも仕事上の関係でもない、微妙な間柄が積み重ねられていくとどうなるのかよく知らない。しかし、そのよくわからない間柄のまま、親密さだけが積み上げられてしまうのはおそろしい。相手からすれば、頻繁に来るのに全然話しかけても来ないというのはかえって気まずいような気もするが、もう3年もそんな状態なのに今更突然「今日は風が強いですね」などと発するのも「こいつ喋れたのか」と驚かれてしまうのではないか。まぁ、たかが客一人に店主もそこまで注意を割いていないだろうから私の自意識過剰なのだろうが、それにしても気苦労だ。少しは話したほうがいいに違いないが、その少しがよくわからないというのが問題だ。パン屋や定食屋やライブバーなど、いろいろな場所で判断に迷うことが多い。

 職場の前の喫茶店は、私が注文してカウンターに座ったら、ずっと本を読んでいても話しかけてこない。適度に放っておいてくれるというのが、私にとってはもっとも大切なことで、ほかの全ての要素は二の次ということになっている。今行っている美容室は本棚があってそこから自由に本をとって読めるのだが、本を読んでいればそこそこ放っておいてくれる。友人との縁の切り方を失敗して依存されたことが何度かあるせいか、人と何らかの関係性を結ぶことに慎重になってしまう。

 「チェーン店じゃない飲食店が苦手なんです。個人経営の店って、店員が人間じゃないですか」と言ったのは友人のたなかだが、本当にチェーン店というのは私のような人間にとっては非常に居心地が良い。そこには目に見えない関係の蓄積や、それにともなうリスクがない。しかし、本当はそういう微妙な関係から発展する素晴らしい人脈というのもあるのかもしれない。

 先の喫茶店で、ゆずの生チョコのケーキがあまりにもおいしかったので、勇気を出して「おいしかったです」と声に出して言ったのが去年。今年、生チョコケーキにゆずの風味が消えていた。わからない。でもそんなものなのか。


追記:後日、ゆず入りの生チョコケーキが再販されていた。おいしかったです。