みやけばなし

毎週金曜更新

ストロベリーフィールズ・フォーエバー

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    クラスで孤立ぎみの坂野は、生活の授業の一環で育てているイチゴの世話に情熱を燃やしていた。

 しかし坂野が数学の補修を受けている間に、誰かが『イチゴを収穫しよう』と言い始め、イチゴはクラスのみんなに勝手に食べられてしまった。

 担任は坂野がほとんど一人でイチゴの世話をしているのを知っていたが、みんながイチゴを食べているとき坂野がいないことに気がつかなかった。クラスメイトも、坂野のことを誰も気にとめていなかった。坂野はもともと単独行動が多いところがあったし、悪気があったわけではないが、みんな坂野のことを忘れていたのだ。

 

 坂野は、イチゴを全部ひとりで食いたいとまでは思っていなかった。みんなで分けあって食べられればその方がいいと思っていた。しかし実際はイチゴはすべて収穫されてしまい、坂野には一粒のイチゴも残されていなかった。

 イチゴは一斉に赤くなるわけではないので、苗代にはまだ白いイチゴが残っている。坂野は腑に落ちなかった。食べられてしまったイチゴは、もう取り返すことはできない。坂野は自分のことを気にかけてくれなかった担任やクラスメイトを恨んだが、それと同じくらい食べられることでクラスメイトと一体化してしまったイチゴを恨んだ。イチゴが取り込まれてしまった以上、もう殺してしまう以外イチゴを取り返す方法はないとさえ考えた。苗代にばらばらにした死体を撒いて、火をつけて燃やすのだ。

 ふいに坂野は、種用に一株だけとっておいたポットの小さな苗のことを思い出した。ポットのイチゴはろくに手をかけていなかったにもかかわらず、立派に実をつけていた。二つの赤い実は、坂野が毎日雑草をむしったり、肥料を足したりと手をかけていた苗代のイチゴよりも赤かった。

 坂野は周囲を見渡して誰にも見られていないことを確認し、2つのイチゴのうち小さいほうの1つの付け根の茎を慎重につまんだ。そして口に入れると、一思いに嚙み潰した。