注射クリムゾン

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 注射が苦手だ。小さいころから嫌いすぎる。目を閉じて歯を食いしばって顔を中心に集めないと耐えられない。刺されている最中は足が宙に浮いている。注射が終わると「はーいもう終わりましたからねー」と言われる。昔手術前検査のために医者で採血されたとき、あまりにも痛い顔をしていたせいか『いたみによわい』とカルテに書かれたことがある。べつに泣いたりわめいたりしているわけじゃないのにあんまりだ。でもその医者は親知らずを抜いた後「ものがつまります、納豆とか」と言ったらカルテに『なっとう』と書いていたので、単に筆マメなだけなのかもしれない。

 

 注射がこわいというより、細いもので刺されるのがこわい。想像したとき、腕をもぎ取られるより、針を爪と指の隙間に打ち込まれるとか、針を目に刺されるとかのほうがこわいと感じる。ダメージとしては間違いなく腕をもぎ取られる方が大きいはずなのに不思議だ。

 

 本当に嫌なので、注射がある日が近づくと、注射が終わったところまで時間を飛び越せないかなと考える。注射の順番が来たら意識がなくなって、気が付いたら注射が終わっていればいいのにと思う。注射が一瞬で終わることは経験上わかっているし、打たないよりは打った方がいいに決まっている。しかしその一瞬が嫌すぎるので、注射を打つという時間だけが消し飛んで結果だけが残ればいいのにと思ってしまう。

 

 同じようなことを眠れない夜にも思うことが多かった。

隣で寝ている弟は、もう明日の朝に先に行ってるのだろうか、と考える。意識がなくてもここにいることには変わらない。しかし何も感じていないから、弟の中では体感としては今は時間が流れていないことになる。じゃあ今弟はどこにいるんだろう?どこでもないところに行っているのか?それって死んでるのとほぼ変わらないのでは?毎晩こんなことをしていて、みんな大丈夫なんだろうか?よくちゃんと毎朝帰ってこられるなあ。そんなことを考えていると余計に眠れなくなる。

 

 楽しいときや夢中になっているときに時間が飛ぶように過ぎていく。その時の私は、そこにいるように見えてそこにはいない。じゃあどこにいるんだろう?みんなはどこにいるんだろう?確かなのは、注射を打たれているとき私は医者の前にいて、歯を食いしばっていて、注射は痛いということだけだ。私は『ここ』にいるのが嫌だから注射が嫌いなのかもしれない。