ミヤケ書房

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DELTARUNE Chapter2 スパムトン考察『アウトルックは回転木馬の夢を見るか』 

【注意!】

 この考察はToby Fox氏制作のRPG『DELTARUNE』Chapter2のネタバレを多分に含みます。未プレイの方はプレイ後にお読みいただくことを強く推奨します。

 また、筆者はコンピュータ周りの専門家ではありません。あくまで個人の見解としてお読みください。

 

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DELTARUNE Chapter2 スパムトン考察『アウトルックは回転木馬の夢を見るか』

1.ピピスって何だよ

2.急行 -Outlook Express-

3.メール、ワーム、トロイの木馬

4.さあ [[BIG]]になろう!

 

 

 

1.ピピスって何だよ

 スパムトンはとにかく「要素」が多いキャラクターだ。TwitterYouTube、海外のFandomなどから考察をたくさん読んだのだが、元ネタとして有力な情報がバラバラかつ大量すぎて頭を抱えた。

 Mike Ditkaの「Big Shot soda」のコマーシャル、Billy Joelの『Big Shot』という曲の歌詞、Griffin McEloyの「Pipis room」というミームロックマン2の鳥型ロボット「ピピ」、スパムメール規制、ピノキオ、Toby Fox…

 

 おそらく、何か1つの要素で全部を筋道立てて説明できるようなキャラクター造形をしていないのだろう。あまり1つの要素に固執すると、ピカソの絵みたいにぐちゃぐちゃになってしまう。ピピス1つとっても、そもそもピピスが何なのかすら説明できないのだ。

 そこでこの考察では、スパムトンの中でも一番要素として手堅そうな「スパム」であるという点に着目して、なるべく多くの要素を取り込めそうな仮説を立てるという方向で考えていきたい。

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2.急行 -Outlook Express-

 スパムトンとは、スパムメールである。Chapter2では、彼(スパムメール)がメーリングソフトとウイルス感染により成り上がり、後に落ちぶれて再起に失敗するまでが描かれている。

 メーリングソフトについては、ゴミ捨て場の店でかつて「メール送信担 当」だったと本人が語っている。そしてウイルス感染については、彼の行動から類推することができる。

 

 

 スパムトンがChapter2でやらかしたことを整理する。

【通常ルート】

 クリスに接触し、商談を持ちかける→「キー生成キ」をクリスに売り、館の「高度な暗号キー」を解除させる→館の地下から空のディスクを持ってこさせる→空のディスクに乗り移る→館の地下のロボットにディスクを入れさせる→「スパムトンNEO」として起動、クリスのタマシイを奪おうとする→つながっているケーブルを切られて機能停止(または攻撃され続けた後爆発)→自分はどうあがいてもあやつり人形に過ぎない、と冷静に話す→クリス達一行に希望を託して消滅

 

【Aルート】

 モンスターがあと何匹のこっているか教えてくれる→ノエルにいばらの指輪を売る→警備する人手がなくなったのをいいことに館を占拠する→泉を封印しようとしたクリスからタマシイを奪おうとする→ノエルの魔法で凍結させられる

 

 

 まず「「キー生成キ」をクリスに売り、館の「高度な暗号キー」を解除させる」、これはトロイの木馬に特徴的なバックドアという動作を連想させる。コンピュータにいきなり損害を与えるのではなく、キーボードの入力情報を読み取ってパスワードを流出させる等して外部から不正ファイルが入り込みやすい状態を作るのだ。その後ディスクを媒介して地下階のサーバルームに残されていたロボット?にインストールされるも、つながっていたLANケーブルを切断され(過剰な負荷により発熱?)、初期化される。

 

 

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 (コンピュータがウイルスに感染したら、最初にやるべきことは何か、みんなはわかるかな?そうだね。ネットワーク切断だね。)

 

 

 通常トロイの木馬は自己複製機能を持たない。外部からの働きかけなしに自己複製する不正プログラムはワームと呼ばれている。しかしワームのような自己複製機能を持つトロイの木馬が存在するのだ。その1つが、2002年に猛威をふるったBugbearウイルスである。

 このウイルスはInternet Explorer脆弱性を突いたウイルスであり、Outlook Express(当時MSで広く用いられていたメーリングソフト。1997年公開)の場合添付ファイルを開かずともプレビューを表示するだけで感染するため大きな問題になった。感染すると受信・送信フォルダからアドレスを取得し、ウイルスのコピーを添付ファイルとして勝手に大量にメール送信してしまう。また、先述のバックドアを仕掛けてキー入力情報を流出させたり、ウィルスチェッカーやファイアウォールなどのアンチウィルス機能を停止させる行為を行ったりもする。

 

BugBearウイルス(Weblio辞書)

https://www.weblio.jp/content/BugBear%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9

 

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 また、アドソン(=アドウェア。無料ソフトに乗じてパソコン内にダウンロードされる、うざい広告を表示するプログラム)によると、スパムトンは1本の電話をきっかけに「四六時中電話ばかりするようになった」とのことである。

 この「電話をかける」という行為はダイヤルアップ接続のことをさしているのではないか。ダイヤルアップ接続とは1999年頃までよく使われていた、電話回線を使ったネット接続方法である。筆者は実際に使ったことはないが、Wikipediaによると

「アクセスポイントの番号にダイヤルの後、モデムからFAX送信時に似た音声(ピーヒョロロロ・・・)が聞こえてくるが、その後でユーザーIDとパスワードの確認等を行い、異常がなければネットワーク接続を開始する。接続中の音はモデムからは聞こえないが、モデムと同じ回線に電話機を接続していれば受話器から通信中の音を聞くことができる。その音は、豪雨の際の雨音のような音である

らしい。

 

 

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アドウェアトロイの木馬はパソコン使用者の意に反して不利益な挙動をするプログラムという意味では線引きが曖昧であり、しばしば混同されることもある。アドソン達がスパムトンを冷遇しているのはそのためと思われる)



 

 しかしおりしも時代はADSLへの過渡期。電話回線による接続は打ち切られてしまった。あるいはあまりにウイルス付きメールを送りすぎたために送信サーバ(SMTPサーバ)からブロックされてしまったのかもしれない。いずれにせよスパムトンはウイルスによる強引な手法を続けることができなくなり、地下のサーバルームの感染サーバもろともゴミ捨て場に放り出されてしまった。その後サーバの機能は、別のサーバか別置のデータセンターなりクラウドなりに移行されたと思われる。

 

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(サーバルームだと考える根拠:人目につかない場所にあり存在が隠匿されている、床にとぐろを巻く配線、地下にあるのに風の音がする、外観)

 

 旧サーバルームにNEOの画像ファイルだけが残されていた理由は定かではないが、Bugbear隆盛の一方で、画像ファイルそのものに感染するウイルスが同じく2002年に確認されていた。

 Perrunというウイルスで、jpegファイルそのものに感染する珍しいウイルスである。これだけ聞くと怖ろしいが、事前に解凍のためのexeファイルの実行が必要であり、その後にjpegファイルを開かないと感染しないという2段階機構のウイルスだ。また、製作者からの情報提供により存在は確認はされたものの実際のインターネット上での被害は報告されていないという。

 

 一般的には「jpegファイルは開いてもウイルスに汚染されない」と思われている。実際、Bugbearウイルスは添付ファイルの拡張子の前に「.jpeg」を入れることで例えば「photo.jpeg.exe」などとすることで一見jpegファイルであるかのように装うこともある。しかしこれでは拡張子が二重になってしまい、偽装としては不十分である。

 クリスの手を借りて今後もバックドア作成を続けることができれば、Perrunウイルスを使って見てくれの良い画像ファイルを送り付けるだけでまた感染者を拡大させることができるのではないか?ビッグになるために「なりふりかまわなくなった」というスパムトンなら考えそうなことではある。

 

 

4.さあ[[BIG]]になろう!

 スパムトンは名前や姿こそメタトンの面影を感じさせるが、実態としてはぷんすかマネキンとの類似点も目立つ。

 

 ・初登場時ゴミ捨て場に現れる

 ・ボディのつなぎめがグラグラで結合できていない(ぷんすかマネキン、スパムトンNEO)

・人目につかない場所に隠されていたボディを勝手に乗っ取る(ぷんすかみゅうみゅう、スパムトンNEO)

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・小さな小部屋にポツンと一人いるレイアウト



 

 また、ファンのことを考えて地上行きを延期したメタトンとは対照的に、成り上がる過程で周りを顧みず、傍若無人に振る舞っていた。この点でも、彼は全然メタトンではない。彼にも暴走を諫めてくれるナプスタブルークのような存在がいてくれれば、また違ったのだろうか。

 しかし、どこか憎めないところもある。スパムトンの行動はいつもどこかちぐはぐだが、タマシイを奪って「楽園」へ行こうとしたり、NEOのウリを防御力だと思っていたり、ネットの情報から拾ったのかUNDERTALE世界の断片的で間違った情報を元に行動している節がある。そこはちょっとメタトンに似ているかもしれない。

 

 この考察を書いている中で、実家のWindows XPに入っていたOutlook Expressの迷惑メールフォルダのことを思い出した。それだけではない。Yahoo!メールも、exciteメールも、捨てアドレスとして使うために適当に取得したフリーメールはもう何年も受信フォルダを見ていない。持ち主が帰ってきていないことにも気付かずに、延々スパムメールが届き続けているはずだ。スパムメールの概念にもし人格があったらと考えると、ちょっとかわいそうかも知れない。しかしそんな同情を尻目に、今後もスパムメールおよびメールを媒介とするマルウェアは進化を遂げ続けるのだろう。じゃあやっぱりかわいそうでもないか…

 

(DELTARUNE Chapter2 スパムトン考察『アウトルックは回転木馬の夢を見るか』 終)


【訂正】

Bugbearはexeファイルそのものに感染するウイルスではないとのご指摘を受け、文章の一部を修正しました。(2021.09.30.18.24)


【訂正】

「メリーゴーラウンドゲームとはジェビルのことでは」とのご指摘がありました。言ってましたね…。そうだなあと思ったため、「メリーゴーラウンドゲーム=回転木馬トロイの木馬?」の記述を削除しました。タイトルはこのままにしておきます…(2021.09.30.22.53)