UNDERTALE考察『電気仕掛けの箱型マシン』番外編 UNDERTALEとジェンダーフリー

 【注意!】

 この考察はToby Fox氏制作のRPG『UNDERTALE』のネタバレを多分に含みます。未プレイの方はプレイ後にお読みいただくことを強く推奨します。

 また、この番外編をお読みいただくことでUNDERTALEというゲームの見え方そのものが変わってしまう可能性があります。念押しになりますがあくまで個人の見解としてお読みください。

【関連】UNDERTALE考察『僕たちはゴミ捨て場から生まれてきた』 

michemiyache.hatenablog.com

 

 

UNDERTALE考察『電気仕掛けの箱型マシン』番外編 UNDERTALEとジェンダーフリー

 

1.サンズはなぜエロいのか

2.メタトンの性別

3.ゴーストが4人の理由

4.誰も死ななくていいやさしいRPG

参考文献 

 

 

 

番外編 UNDERTALEとジェンダーフリー

 

1.サンズはなぜエロいのか

 

・UNDERTALEとジェンダーフリー

 メタトンの考察を読んでいたはずなのになぜサンズなのかと思われたかもしれないが、メタトンの話は追い追いするのでまずはご一読いただきたい。

 

 少しでもプレイした人は何となく感じとれたと思うのだが、UNDERTALEというゲームを語る上で、ジェンダーという概念は切っても切り離せない重要なテーマになっている。簡単に例を挙げる。

 

 ①同性のモンスターに恋愛感情を抱くキャラクターが、『同性同士である』ということを理由にからかわれたり批判されたりしない

 同性愛者のキャラクターが登場するゲームはもはや珍しくないが、多くの場合同性であることを理由に気持ち悪がられたり、いわゆる『オネエ』キャラとして雑にくくられるなど、周りから奇異の目で見られる存在として描かれる。しかし、UNDERTALEの世界では異性愛と同性愛が完全に同列のものとして認識されている。

 

f:id:michemiyache:20180427213713p:plain

 (アンダインとアルフィーがキスしようとするシーン。トリエルは「ニンゲンのまえですよ!」ととがめるが、女性同士であることには言及しない)

 

 ②「女らしくしろ」「男は◎◎しない」などのジェンダーバイアスのある表現が徹底的に避けられている

 例えばアンダインが女らしくしろと言われたり、メタトンが男らしくしろと言われたりするようなシーンは一切ない。また、異性装にいたっては、概念自体が存在しない。

 

f:id:michemiyache:20180427212608p:plain

 (アズリエルも『男は泣かない』という言い回しを使わない)

 

③職業選択における性別を理由とした差別や不利がない

 アンダインが王国騎士団の団長を務めていること、アルフィーが王室専属研究員の職についていることから、能力があれば性別に関わらず希望の職に就ける世相であることが伺える。

 

④主人公、ゴースト等一部のキャラクターの性別が特定できないように工夫されている(三人称が単数でも『they』で表現される)

 性別がわかりにくいモンスターが数多く登場するが、特に主人公とゴーストについては外見や会話内容から性別が特定できないようになっている。

 

 このように、UNDERTALEはジェンダーリテラシーという面においてずば抜けて洗練されており、この徹底ぶりがゲーム全体の雰囲気を現代的でスタイリッシュなものにする大きな要因となっている。ゲームシステムの斬新さ、ストーリーの作り込み、レトロでどこか懐かしいグラフィックなど、UNDERTALEの『良さ』については語りだすときりがないのだが、この番外編ではあまり触れられてこなかった(と思う)ゲーム全体の通奏テーマ『ジェンダー』に着目して雑多に書き出していくことにする。

 

・家族とは何か

 ゲーム開始時に主人公は『クッション』の花の中から目覚め、フラウィーになかよしカプセルと称する『種』状のものを浴びせかけられ、『保護者』を名乗るトリエルの施しを受け、長い長いいせき(Ruins)の『通路』を通って地下世界に出ていくことになる。

 このいせきでの一連の流れは胎児が生まれるまでの暗喩(胎盤精子、臍帯、産道)にもとれるのだが、注目すべきは現実の人間の発育においてこの後に行われるべき『育児』がトリエルの手によって行われないということだ。二次創作においてトリエルとアズゴアはママ、パパと呼ばれることが多いが、実際の作中では家族としては機能不全を起こしていると言わざるを得ない。では誰が主人公の『親』なのか?

 

 Toby氏が制作する上で影響を受けたと明言しているMOTHERシリーズを思い出してほしい。主人公のママはいつも家にいて、主人公の好きな食べ物を作ってくれる、シェルターのような存在として心のよりどころとなっている。一方パパは(よくネタにされるように)作中では電話の姿でしか登場せず、金銭のやりとりをするだけという遠回しな支援者として描かれている。

 UNDERTALEでも、その両親の役割を引き受ける人物が設定されている。

 

 パピルスは友達になってもならなくても、いつでも必ず家にいて主人公を受け入れる準備をしてくれている。主人公がどんなにモンスターを殺しても、絶対に友達になり、抱きしめようとさえしてくれる。多少もの知らずでとぼけていて気が回らなくても、主人公のことを拒絶するという発想自体がない。

 また、サンズは行く先々で主人公の前に姿を現し、アイテムを売ってくれたり遠回しなアドバイスをよこしてくる。いつも主人公を気にかけてくれていて、バーやレストランに飲みにも連れて行ってくれる。そして、道を踏み間違えたときは全身全霊ををもって叱ってくれる。

 つまり、UNDERTALEではパピルスとサンズはいわゆる母性・父性というものの象徴として描かれているのだ。サンズが肉体的にはただの白骨なのにも関わらず『世界一エロ画像の多い骨』とまで言われるのは、相対する者に無意識のうちに強い父性を感じさせるからだろう。そしてその役割を男女の夫婦ではなく『兄弟』に担わせているというところが、家族の多様性の在り方を示唆させ、UNDERTALE全体に通奏低音として流れる『ジェンダーフリー思想』の一つの根幹となっている。ここにToby氏の先進性がある。

 

 

2.メタトンの性別

 話をメタトンに戻す。

 

 メタトンの性別についてはFANDOMで長い長い議論がされている。ハプスタブルークとメタトンの性別について、筆者の見解を一応まとめておく。

 

ハプスタブルーク

①生物学的性(肉体の性別)

 →そもそも肉体が存在しないので無い(無性)

②社会的性(周りから扱われている性別)

 →アンダインから電話で三人称で呼称された際『they』が用いられている(不明)

性自認(自分が認識している性別)

 →日記の文面だけでは判定できない。(不明)

 

メタトン

①生物学的性

 →ロボットなのでおそらく無い(無性)

②社会的性

 →どのキャラクターからも(Toby氏からも)『he』で呼称されている。また、無性別と捉えられているなら『they』が用いられるはず(男性)

性自認

 →キャッティの『「オレは オレの アイデアから うまれたんだぜ~」みたいな ノリで~』という話にもあるように、自己決定意思を持って『メタトン』を引き受けているように見える(男性?)

 

f:id:michemiyache:20180427194656p:plain

 

 

 しかし、そんなことはどうでもいいことである。

 

 前作の考察でも書いたように、メタトンの『理想の肉体を手に入れたい』という目的は、トランスジェンダーの婉曲表現として捉える論調がある(特に海外)。メタトン(あるいはハプスタ)の性別が実際にどうであるかに関わらず、ジェンダーフリー思想がいきわたっている地下世界に『肉体のことで悩んでいるキャラクターが出てくる』、そのこと自体に制作者の何らかの意図があると考えられるからだ。

 

 ファンタジー作品においては、読み手に感情移入を起こさせるために『自分ごと』として捉えられる課題を盛り込むということは非常にメジャーな手段である。

 トランスジェンダーについては『心と体の性別が一致しない』、『自分の体が自分のものではないように感じる』など、様々な言葉で説明がなされてきたが、男性か女性かのどちらか二分の性を当たり前のものとして受け止められている大多数の人からすると、正直どれもピンとこないというのが本当のところではないか。

 しかし、UNDERTALEに登場するゴースト達の『肉体が存在しない』『通常のモンスターとは肉体の在り方が異なる』という状態がどのような心境でどういう社会的不利があるのかというような境遇は、トランスジェンダー当事者でなくとも全体の物語を通じて自然と感じ取ることができると思う。プレイヤーはUNDERTALEのプレイを通して、トランスジェンダーという概念の本質に(ほぼ無意識といっていいくらい)自然に共感することができるのだ。TobyFox氏のテーマ選びの英断と、テーマを独自の世界観に読み替えたうえでストーリー全体と調和させるバランス感覚はまさに偉大としか言いようがない。

 

 ここで誤解してほしくないのは、筆者は『メタトンが実際にトランスジェンダーであるかどうか』を断定しているわけではないということだ。近年、社会問題を直接的にではなく背景として描くファンタジーがディズニーを中心に席巻している(『アナと雪の女王』、『ズートピア』等)。UNDERTALEもそれらと同様に、トランスジェンダーについてオマージュとしての課題提起をしていると読み解くことができるということなのだ。 

 

 

3.ゴーストが4人の理由

 メタトンの性別はメタトンだとして、なぜゴーストは4人も出てくるのだろうか。単純にトランスジェンダーを象徴するキャラクターを出すだけならメタトン一人で十分なはずではないか。

 

 肉体を手に入れたいというゴーストの欲求や状態を、そのままトランスジェンダーの性別適合状態に当てはめると以下のようになる。

 

チュートリアル用マネキン→現在の肉体に満足している→完パス(性別適合手術に成功し、希望する性別で問題なく生きている状態)

・ぷんすかマネキン(マッドダミー)→ボディを結合しておらず、自分の肉体に満足していない→性別違和(手術に失敗した、もしくはまだ手術に至っていないために、肉体と精神の齟齬に苦しんでいる状態)

・ナプスタブルーク→そもそも肉体を手に入れたいという欲求がない→Xジェンダー(肉体のイメージが存在しない、決められない、必要としない、他)

・ハプスタブルーク→理想の肉体を手に入れたいと欲し、実際に行動する→性別移行中(ホルモン注射や部分手術などを進めている過渡期の状態)

 

 つまり、トランスジェンダーのそれぞれの状態を体現していると読み解くことができるのだ。

 

※余談だが、ジェンダーフリーが前提となっている地下世界でゴーストが周囲と距離を置いた存在として描かれていることは、LGBT内でのLGB(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル)とT(トランスジェンダー)間の溝と構造上類似しているとも見ることができる。(トランスジェンダーは反差別運動を推進したゲイコミュニティの中などでも性差をかく乱する存在として敬遠されてきた歴史がある。)

 しかし実際のところアンダインはナプスタに好感を持っているし、エンドロールでもみんなそれぞれうまくやっており、ナプスタが肉体を持つよう強要されたりもしていないところを見ると、地下世界でのゴーストは『差別されている』とはまでは言い難い。むしろそれぞれのゴーストがそれぞれのあり方のままで許容されているという意味では、地下世界では『肉体がない状態で生きている存在がいる』ということが当たり前のこととして受容されていると捉えられるのではないか。

 

 

4.誰も死ななくていいやさしいRPG

 Twitterで公開されていた考察の中に、「キャラは性別がわかりにくい外見をしているために虐待やいじめを受け、地下の世界に逃げ込んできたのではないか」という見解があった。そもそも『誰も死ななくていいやさしいRPG』というテーマ設定自体が「ポリティカルコレクトネスに配慮していたら面白いものはできない」というジェンダーフリーへの反発に対する強烈なアンチテーゼにもなっていることを考えると、いかにもありそうな話に思えてくる。それくらい地下世界は理想郷でありやさしい世界なのだ。

 

 しかし、『地下世界はいいところだから一生出なくていいよね』という結論にはなっていない。UNDERTALEの世界はあまりにもやさしすぎるので、ともすれば、用意されている唯一のハッピーエンドが『みんなと一緒に地上の世界に帰る』ことであるというのを忘れそうになる。

 

f:id:michemiyache:20180427220152p:plain

 プレイヤーはゲームをずっとやっているわけにはいかない。それは時間的な制限だけではなく、精神的な制限によるところが大きい。UNDERTALEがいくらテキストが多いといっても、いつかは『飽きて』しまうときがくる。セーブとリセットを繰り返せば無限に遊べるように見えて、楽しく遊べる回数は少なくとも『無限』ではない。

 ゲームをやめた後どうやって生きていけばいいのかは、プレイヤーが自分で考えなければならない。現実の世界では同性愛者は平気で差別されているし、性別による偏見や押し付けは依然として強く、肉体が存在しない人間は『いない』ことにされている。そんなときに、UNDERTALEは戻ってくる場所として機能するに違いない。たとえ一万回プレイしたとしても、UNDERTALEには、プレイした人の一生の心のよりどころになるだけのポテンシャルがある。パピルスがいつも家にいて、いつでも友達として待ってくれているように。

 

 

 あとがき

 メタトンはUNDERTALEというゲーム全体から見れば『準メインキャラ』という立ち位置だと思います。アルフィーの出世のきっかけではあるものの、登場しなかったとしても地下世界全体の歴史にはほとんど影響がありません(集合絵でも描かれないことがあるくらいです)。

 にもかかわらずここまでしっかりした伏線とサイドストーリーが用意されているということが、Toby氏の徹底した『やさしさ』の象徴であるように思われてなりません。メタトンは本当に奥が深いです。第1章からここまで飽きずに興味を持ってお読みいただけた方は、きっと私といい酒が飲めると思います。ありがとうございます。読んでくれる人がいたおかげでここまで書き上げることができました。

 

  最後にこの考察を書くにあたって目を通したFANDOMのうち特に参考にしたページを参考文献として載せておきます。本当にありがとうございました!

 

 

f:id:michemiyache:20180427224543p:plain

 

参考文献

『メタトンのゴースト』(ボディの結合とダメージについて)

Mettaton's ghost | Undertale Wiki | FANDOM powered by Wikia

 

 『メタトンとソウル』(『箱トン未結合説』の着想元)

METTATON + SOULS | Undertale Wiki | FANDOM powered by Wikia

 

『Gルートでのメタトンとアルフィーについてだけどわかったぞ!!!』(Gルートで二人が何をしていたかの考察)

METTATON AND ALPHYS ON GENOCIDE ROUTE EXPLAINED!!! | Undertale Wiki | FANDOM powered by Wikia

 

『なぜメタトンNEOはあんなに弱いのか』

Why Mettaton NEO is so weak. | Undertale Wiki | FANDOM powered by Wikia

 

『メタトンの性別』

Mettaton's gender | Undertale Wiki | FANDOM powered by Wikia

 

 

(UNDERTALE考察『電気仕掛けの箱型マシン』終)